「手紙事件」の二日後、学校から帰ると、母が誰かと電話をしていました。
電話の前に正座して誰かに向かって、何度も頭を下げていました。
それとなく聞こえてくる話の内容から、相手が、あの「荘先生」だとわかりました。母は覚悟を決めて電話をかけたようでした。途中で、荘先生が私に代わって欲しいと言ったらしく、私も話をしました。
細かいことはもう忘れてしまいましたが、ただ
「あなたが手紙を書いてきてくれたことで、お父さんのがん の苦しみを和らげてあげられるのよ」
「あなたがお母さんを支えてあげてね、お母さんは今、とても大変だから」
と念を押されたのは記憶しています。
とにかく、電話を切ってからの母は、まるで違っていました。
父のため、できることは何でもする、と心に決めたようでしたし、実際父が亡くなるまで、ずっと献身的な看病を続けました。
荘先生から勧められたのは、主に「中国伝統医学 (中医学 )」の食事療法 でした。
ある日から、家の台所に「食用カエル」や「すっぽん 」が並び始めました。
母は、父がガン に負けないように母ができる料理で、父を支え始めました。
それはまるで、不安を忘れるために、料理に一心に心を込めているように見えました。
父を前にして何もできない、と嘆き悲しむよりも、母は自分ができることから始めたのです。
大切な人のために心を込めた料理は、体だけでなく、両方(患者と、家族)の心をも癒し、気持ちを前向きにさせる、といわれています。
あなたが作るスープは「命をつくるスープ」なのです。
きょうのひとこと
あの頃は、すっぽん や食用カエル を手に入れるのに大変な苦労がありました。でも、今は本当に楽になりました。 インターネットの普及で、値段も手ごろになったように感じます。
ガンの治療中は「陰虚(いんきょ)」という状態になりやすく、元気がなくなり、体力が落ちています。不足した「血」と「水」を補うのに、すっぽんは満点の食品です。すっぽんの甲羅は、コラーゲンがたっぷりですので、肌のかさかさや、不眠にも効果がある、美容鍋になります。


